転機、好機。そういうものは待っているだけでは決して向こうから近づいてくることはない。
自分から動き出さなければ自分の手ではなく、他人の手にわたってしまう。
世の中に出回っている好機は数あれど、それを連続して手に入れ、いわゆる幸運と呼ばれるものを手に入れるには、やはりそれなりの労力というものが必要なのだ。
川原で新ユニットの結成宣言をした後。しかし、俺はどこかでこれでなんとかなるという甘い考えを持っていたのかもしれない。しかし、現実はそこまで甘いものではない。
まず、仕事が来ないのである。まあ、アイドルといえど芸能人とは仕事をしていないときは、そこら辺をほっつき歩いているプー太郎と何ら変わりがない。
そして、そのアイドルたちをプロデュースして、仕事を探してくるのが俺の役割なのだ。
社長は特に何も言わないが、最近なかなかこれというアイドルが事務所からでなくて、経営が苦しいというのは平の俺でも十分に感じられる。
とにかく時間がなかった。アイドル候補生たちの彼女たちには悪いのではあるが、こういった下積みというのも後の芸能活動の肥やしになることだろう、今はただ耐えて欲しい。そう思っていた矢先の出来事であった。
暑い、とにかく暑い。アスファルトからの照り返し。道の向こうが揺らいで見える。
俺とアイドル候補生たちは次の小ステージのデパートへの挨拶に出かけていた。
事務所から電車をなんども乗り換え、最後は徒歩である。タクシーなんぞ乗れるような身分ではないのである。
俺達が道を歩いて行くと、小さな喫茶店が目に見えた。喫茶店の花壇に生えているハイビスカスの花も暑さにやられてうなだれていた。
すると、喫茶店からどうやら主人と見られる男が出てきて、道に水を撒き始めた。打ち水である。
俺はその男に「今日は暑いですなあ。」と話しかけられた。「いや~本当に暑いですね。」俺は適当に返答する。暑さで参っているのだ。
「お仕事は何されてるんですか?」
「ああ、私こういうものでして、この娘たちのプロデュースをしております。よろしくお願いします。」
こういう場でも立派な営業の場になる。俺はその男に名刺を渡した。今の彼女たちのアイドルランクを鑑みるに、なりふり構ってられないのである。
「ああ、プロデューサーさんなのね。てっきり女の子3人も連れてるんだから、親子でもなさそうだし、なんなのかなあって思ちゃった。ごめんね。今度CDでももっておいでよ、お店に置いてあげるよ。」
「本当ですか!?ありがとうございます。」
今日はなかなかついてるようだ、変な疑いをかけられたとはいえ、こんな経緯でCDを置いて貰える店をGETできたのはラッキーだ。
確かに、休日とはいえ、俺ぐらいの年の人間が、中学高校ぐらいの女の子3人を連れてるなんて周りから見たら少し不審であることは否定出来ない。よく今まで職質にでもあわないものだ。
そんなこんなで、俺達はデパートについた。春香たちは相当参っている様子だった。
仕方ないので俺は近くの自動販売機で自分の財布の中からお金を出し、適当な清涼飲料水を買ってやった。まあ、経費にはできないだろう。
飲み物を飲んで生き返ったと言わんばかりの幸せそうな春香たちの顔を見るのは本当に幸せな時間だ。
心が暖かくなってくる。こんな物なら450円は決して高くない!俺はそう自分に言い聞かせた。
元気を取り戻した春香たちが談笑しながら約束の時間を待っている間、俺は正直少し不安だった。
ここの社長さんには前にこの仕事の約束を取り付けたときいに会っているのだが、どうも難しい感じの人間だった。
難しいというよりも端的に言えば「嫌な」人間だった。今まで、営業をしていてまあ、色々な人間にはあってはいるが、あそこまで露骨に人間の嫌味を出せる人間はいないのかなと。
まさか、彼女たちに直接あんな態度を取るとは、大人の常識的にありえないが、もしそうなったときに彼女たちが傷ついて立ち直れなくなったり、いや、そこまで行かなくても、とりあえず、傷つかないためにも先に事実を知らせておいたほうがショックは少ないだろうという結論に達した。
「なあ、春香、やよい、千早聞いてくれ。今日の挨拶先の人なんだが、ちょっと、普通じゃないというか、なんというかもしかしたらお前たちを傷つけようと何か言ってくるかもしれないが耐えてくれるか?」
楽しそうに談笑しているところに、こんな暗い話題を言い出すのは、私の良心がシクシクと痛んだのであるが、仕方あるまい。千早が一番に口を開いた。
「プロデューサー、私たちを見損なわないでください。仮にも芸能人なんですから、この業界を必要以上に蔑む人もいることを知ってますし、平気ですよ。」
そうなのだ、俺も千早は耐えれるような気がするのだ。問題は春香とやよいなのだ。
「うぅ、怖いのは嫌ですけど、けどお仕事のためなら仕方ないかなぁって。」
「私も。大丈夫ですよプロデューサーさん!」
まあ、一応大丈夫そうだが・・・本当に大丈夫なのだろうか?というよりも、さすがにあの社長でも、こんな子供相手に酷いことは言わないだろう。そう思っていた。
時間だ。俺達は社長室の前に通された。秘書のような女性がインターフォンに話しかける。そうして、俺達は社長室に通された。
「あら、まあ。お久しぶりね。Pさん。」
黒の革の椅子にドンと居座るのは。紫色の羽織物をして、指にバカでかい宝石の指輪をしている女社長である。
「この度は、私たちの事務所のアイドルたちを採用いただき誠にありがとうございます。」
俺と春香たちは一緒に頭を下げた。
「フンッ。まあいいわ。・・・あら~この娘が今回のアイドルさんたちね・・・」
「は、はい。」
「華がないわね~なんか華がないわ!特にこのリボンかけた娘なんて、田舎臭いわ~。」
しまった。よりによって春香への攻撃である。それにしてもこの女、いったい何だって言うんだ。いくらなんでも、もうここまでいくと、ただの罵詈雑言の類である。
経営者であろう人間が発するべき言葉ではなかろう。いや、発することはあったとしても直接言っていいことと悪ことがあろう、普通は思っても口には出さないものだ。
俺は正直我慢の限界に近づいていたのかもしれない。喧嘩はしてはならない。しかし、プロデューサーとして彼女たちが傷つくのを黙ってみるわけにもいかないのだ。
「あの、すいません。そういうことはここでは・・・」
「まあ、ごめんなさい。そうだわね~こんなに可愛らしい娘たちなのにね。ごめんなさいね、思ってたこと口走ちゃって。」
俺は拳を握りしめた。煮えたぎる思いは爆発寸前であった。俺への罵詈雑言はいくらでも耐えることが出来る。
正直これが容易に想像できたから、挨拶は俺ひとりで行くつもりだった。
しかし、社長きっての要望で、彼女たちもつれていくことになったのである。
許せねえ。これはいくら営業先の人間のすることでも許せねえ。俺の理性が感情をおさえきれなくなりかけたとき、後ろから小さな声が聞こえた。
「プロデューサー。」
千早の声だった。ふと後ろを見ると三人は社長は見ずに、じっと下を見て耐えている。じいっと耐えているのである。
そうである、彼女たちは耐えているのである。理不尽な罵詈雑言を延々と受け続けながらも耐えているのである。
ここで俺が耐えられないとはどういう事だ。俺は自分自身を恥ずかしいと思った。彼女たちが耐えているのに、自分は自分の怒りをおさえ切れないでいた。
そうすると、怒りはスゥっと引いていった。冷静になった俺は、なぜこの女がそれまで罵詈雑言を彼女たちに投げかけるのかを考えていた。
ふと下げていた頭を上げてみる。すると、社長の目には見たことのある物が浮かんでいることに気づく。そうか・・・これは嫉妬だ。
どんなに会社が成功したとしても、どれだけ社会的地位を得たとしても、自分自身が若返ることは二度と無い。
いや、年を重ねるごとに人間と言う生き物は深みを増すはずで悪いことばかりではないのであるが、若さを美貌を女の唯一の価値としている女性たちにとっては、自分よりも美しく若い女性は、溶岩流のようにドロドロとした、ヘドロのように粘っこい嫉妬の対象になるのだ。
女は延々と話し続けた、俺達はただ頭を下げているだけだった。
「もういいわ。下がりなさい。」
数分後、ようやく女は言いたいことを全部吐き出したらしい。しかし、本当に彼女たちが耐えてくれてよかったと思った。しかし、次の瞬間、春香が顔に手を当てて階段を全速力でかけ登り始めた。
しまった。やはり相当きていたんだな。俺は春香を追った。
「春香!」
階段の一番上の扉を開けるとそこは屋上スペースであった。今は誰もいない。しかし、ここは近いうちに子どもたちが遊べるように遊具が置かれて、その屋上遊園地のオープン記念の仕事を請け負ったのであった。
「春香!」
屋上の角のフェンスに片手をかけて、春香は泣き崩れた。俺は急いで春香の元へ駆け寄り、春香を抱きしめる。
「春香!春香!春香!すまない。本当にすまない。本当にすまない。」
何を言っていいのかわからない。ただ、同じ言葉を繰り返すことしかできない。心から本当にすまないと思っている。けど、言葉が、幾千ともある言葉が頭の中を渦のように飛び回り、それが口から出ていかないのだ。
「プロデューサーさん!なんであたし、あんなこと言われないといけないんですか!こんなに暑いのに、こんなに遠いところまで来て!なんであんなこと・・・酷い、酷い。」
春香が俺の胸の中で泣きながら、大粒の涙をこぼす。春香の顔を見て、俺は本当に後悔した。
こうなることは予想できたはず、じゃあ、なんで断らなかった?結局は彼女たちを売り出さないと自分の業績が悪くなるからだ。
何が彼女たちを守るだよ。結局俺はあの守銭奴老婆と同じ、自分のことしか考えていないんだ、最低だ、最低だ。
「春香、すまな・・・」
「情けないわよ!春香!」
俺が春香に謝罪の言葉を述べようとすると、後ろから千早の腹式呼吸から発せられた芯のある大きな声が響いた。
「情けない!情けない!情けないわ!見なさいよ、あんたよりも小さなやよいちゃんだって泣いてないのよ。あんたそれでも高校生なの!」
「だって、千早ちゃん・・・」
「だってもへったくれもない!泣いたら負けよ!」
そう言うと千早とやよいは俺と春香の元へ歩いてくる。千早は春香の前へ優しく手を差し伸ばした。
「春香、悔しいのはわかるわ。私だって、やよいだっておんなじ気持ちよ。けどね、いやだからこそ、この悔しさをバネにして今成長しなきゃ駄目なのよ。」
千早の声は優しい。何かを包みこむような優しい声だ。
「うぅ、あんなひどいこと言われたの初めてですけど。世の中あんなひどい人は殆どいないかなぁって。」
「春香、涙を拭きなさい。立ち上がりなさい。見返してやるのよあんなヤツ。」
「春香さん。」
「千早ちゃん・・・やよい・・・」
春香はいつの間にか泣き止んでいた。手で強引に涙を拭き取り、千早の手を借りて立ち上がった。
「ありがとう、千早ちゃん、やよい。ごめんなさい。」
「謝ることなんて無いのよ春香。」
「そうです。私たちは仲間です。」
「ありがとう!千早ちゃん!やよい!」
俺はフェンスにもたれ掛かりながら、そんな三人の姿を眺めていた。嗚呼、ことは俺の期待している通りに進んでいる。
もう、俺がいなくても、何かがあっても彼女たちだけで支え合って乗り越えていくことができる。俺はそんな彼女たちのサポートをしていくだけだ。
帰り道、日も傾き始めた夕方、俺達は帰路についた。例の喫茶店の前を通ると、これまた例の主人が声をかけてくる。「どうだったかい、仕事はうまく言ったかい。」と私は「はい。」と答えた。
ふと視線を花壇の方に向けてみる。昼間しおれかけていたハイビスカスがシャンとしている。その花びらには生命力が感じられた。どんな苦しい状況に置かれようとも、耐えて耐えてそして、美しく艶やかな花を咲かす。
その花の色は、春香の髪についているリボンと同じ
赤。
続くかも
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あとがき
今日は大学の授業でして、正直前日レポートで徹っちゃんしてましてほとんど寝てました。
授業中ぼうっと考えてたのがこの内容です。しかし、なかなかうまく書けないな~w
追記2011-09-13
ほう、中々読める文章書いてるじゃんw
それに比べてエロパロ書いてる今の俺は・・・・w